歯ぎしりを治すことをせず、放っておくと歯を抜くことになり、失ってしまうリスクが高くなることを知っていますか?
歯ぎしりをしている人は大なり小なり8割以上の人がしているのにも関わらず、自覚している人はほとんどいないのが現状です。そのため何も歯ぎしりに対する治療や対策がされないことも、とても多いのです。
僕も実際に歯の治療をしていて、歯ぎしりが原因で歯を抜かなければならなくなったことがありました。今回は歯を失ってしまうようなことになる前に、本当は怖い歯ぎしりについてもっと知り、
- 歯ぎしりによってどのようなことが起きるのか
- 歯ぎしりをする人は、どんな対策をしていけば良いのか
がわかるようになれたらと思います。
それではさっそくいきましょう!
目次
なぜ歯ぎしりを発見することが大切なの?
歯ぎしりは主に睡眠中に無意識に起こります。したがって自分が歯ぎしりをしているのか人に指摘されないかぎりわかりにくいことが特徴です。
実際には歯ぎしりにより、普段噛んでいる力の5〜6倍の力がかかり、人によっては70kgにも及ぶこともあります。
これが毎日あなたの歯にかかってくるとしたら、あなたの歯にどんなことが起きてくるのか想像してみてください。
これは歯ぎしりによって歯が割れてしまっている状態の写真です。あなたがもし腕を骨折してしまった場合、折れた部分は3ヶ月もすればくっつき、普段通り動かせるようになると思います。しかし歯は割れてしまったら、二度とくっつくことはありません。
もし割れた線が歯ぐきの下まで続いていると、口の中のたくさんの細菌が割れた線に入り込みます。その後歯や周りの組織に感染が起きてきます。すると歯茎が腫れたり、噛んだときに痛みがでてくるのです。
ちょうどこのような状態です。結果的に、くっつけることができない歯は抜かなければならない可能性がグッと高くなります。
せっかく治療した歯がダメになる!?
歯の虫歯が進行すると、歯の中の神経に感染が起きてきます。これは何もしなくても虫歯がズキズキしているような状態です。
この場合、歯の中の神経をとり、その上に冠を被せていくことが多いのですが、そのときに歯の上に「コア」と呼ばれる金属の土台を立てることがあります。
実はこの金属の土台を歯にたてるためには歯の削る量を多くせざるを得ません。これは虫歯を削った後の歯をさらに削ることになり、残っている健全な歯の量がとても少なくなることに繋がります。
ただでさえ残っている歯の量が少ないところに、普段の噛む力の何倍もの力がかかった場合、痛みが出たり、さらに歯が割れてしまうリスクが高くなってしまうことが容易に想像できると思います。
ここまでの説明で、「歯ぎしりは口の中がまだ問題ない時点で発見し、予防しなければならない」ということが理解できたと思います。
なぜ歯ぎしりが起きるの?
それではなぜ歯ぎしりが起きるのでしょうか。実はそのはっきりとしたメカニズムは、まだわかっていないのが現状です。
- ストレス
- 咬み合わせの問題
- 睡眠時に起きる「睡眠時無呼吸症候群」
などの様々な要因が組み合わさって起きることが指摘されていますが、”歯ぎしりを毎日している人が、歯ぎしりを全くしないようにすること”はとても難しいのです。
ただわかっていることは、”浅い眠りのときに歯ぎしりが起こる”ということです。
上の図は人の「睡眠サイクル」を表しています。REMと書かれた赤い部分は眠りが浅い部分(REM睡眠)で、歯ぎしりの約90%がこのときに起こるといわれているので覚えておきましょう。
誰が見てもわかる、歯ぎしりが原因で起きる口の変化とは
毎日歯ぎしりによる強い力が、あなたの歯にかかり続けると、周りの組織にはどのような変化が起きてくるのでしょうか。ここでは誰が見てもわかる「歯とその周囲の変化」について解説していこうと思います。
歯の形が変わってしまう、”すり減り”
歯の先端の形がまっすぐになってしまっていることがわかります。これは歯ぎしりの影響により、歯がすり減ってしまった結果起きてきます。
ここですり減ってしまった歯は、割れてしまったときと同じように時間が経てば元通りになることは絶対にありません。
歯自体が”欠ける”
歯ぎしりで起きる影響は歯の先端だけではありません。歯に強い力がかかることで、歯の根元にも応力がかかるのです。その結果歯がたわみ、根元が「パキッ」と欠けてしまうことがあります。
その結果、歯の中の神経が生きている場合、冷たい水や風などの刺激が加わったときその場所が”知覚過敏”により、とても染みてしまうことがあります。
冠や詰め物が”外れる”
力のかかり方によっては、歯の冠や詰め物が外れることもあり得ます。
主に外れるものとしては、保険診療で使われる金属があげられます。
もし寝ているときに外れた場合、誤って飲み込んでしまう可能性があったり、外れた場所が同じように染みてしまうこともあります。
最も怖いのはこれ!見た目ではわかりにくい口の変化
”歯周病”は誰もが聞いたことがある病気です。実は歯ぎしりと歯周病が合わさることで、知らない間に歯を失うスピードが早くなります。
歯周病は”歯を支えている周りの骨が徐々に無くなり、歯を失ってしまう病気”です。
日本人の約8割は歯周病と言われています。しかし、歯ぎしりと同じく自覚している人は少ない病気です。
この日本人の約8割が罹患している歯周病に歯ぎしりの強い力が加わると相乗作用で、急速に歯周病が進行し周りの骨が無くなるのです。
ここで勘違いしてはいけないことが、歯周病は歯ぎしりが原因で起きるのではなく、歯の周りについた細菌の塊(プラーク)によって起こるということです。
わかりやすく染め出すとこんな感じです。このプラークはうがいをしただけでは、落とすことはできません。しっかりと歯ブラシを当てて擦らないととれることが無いということは重要なので覚えておきましょう。
あなたはどのタイプ?歯ぎしりのパターンをチェック
歯ぎしりにもいくつかの種類に分けられます。それぞれのタイプには特徴もありますので、あなたもどのタイプなのかをチェックしていきましょう。
歯ぎしり型(グライディングタイプ)
歯ぎしり型は歯を全体的にギリギリとこすり合わせるタイプです。広範囲に顎を動かしてこすり合わせることから、歯が全体的にすり減っていくのが特徴です。
全体をこすり合わせることから、大きな音が鳴ります。歯ぎしりの期間が長ければ長い程、歯のすり減りは大きくなります。
また、本来の咬み合わせの位置よりすり減ってしまった分、咬み合わせの高さが低くなります。一度低くなってしまった咬み合わせを治療するのは難しく、費用や治療期間が多くかかってきます。
咬みしめ型(クレンチングタイプ)
咬みしめ型はその名の通り、わずかに動かし咬みしめますので、あまり大きな音は鳴りません。歯全体がすり減るというよりも、咬みしめ続けることで、顎の骨が発達して膨らむことが多いのが特徴です。
また、舌に咬みしめた痕が残ることもあります。
舌の横の部分がでこぼこしているのがわかると思います。
歯ぐきの腫瘍と勘違いしてしまう?骨隆起とは
下の画像のように、歯肉の一部が盛り上がっていることがあります。一見、歯肉が膨らんだ「腫瘍」に見えなくもありません。
これは”骨隆起”といい、遺伝や強い咬み合わせの力がかかることによって起きるもので、咬みしめ型の歯ぎしりを行う人に多く見られます。
顎の中の骨が部分的に増殖したもので害はありませんが、入れ歯を作る際に障害になったり、生活に支障が出る場合は外科的に取り除く場合もあります。
きしませ型(ナッシングタイプ)
きしませ型は、ある一部分を強い力でキリキリとこすり合わせるために、3番目の歯(犬歯)や、その周辺の歯の先端だけがすり減ることが多いのが特徴です。
上の画像のように、こすり合わせた部分を合わせるとピッタリ合うことがわかると思います。
このように、”きしませている部分のみ”すり減り、歯の先端が欠けることもあります。
症状がわかったら行う、”歯ぎしり”に対する治療法と対応策
それでは歯ぎしりに対する治療法と対応策を解説していこうと思います。
歯ぎしりの治療は、先ほど説明したように歯ぎしり自体を無くすことは難しいので、「歯ぎしりから歯を保護して守ること」や「歯を失はないように予防すること」が歯医者で行う治療の主体になります。
とりあえず歯ぎしりから歯を守る方法
歯を守ったり、音が鳴らないようにするための確実な方法は”ナイトガード”というものを装着し、歯を守ります。既製品も売られていますが、個人の歯に合ったものを、歯科医院で型取りして作成した方が個人の歯にフィットしてより効果的です。
このように歯を覆い、保護することで歯が削れるわけではなく代わりにマウスピースが削れる仕組みです。ナイトガードは消耗品ですので、汚れたり穴が開いて使えなくなった場合は作り直しをお勧めします。
歯ぎしりで歯を失はないためには、「・・」を行うことが一番早い!?
先程、歯ぎしりで歯周病に罹患して炎症がある歯に大きな力がかかると、相乗作用で歯周病がさらに進み、歯を抜くことになる可能性が高まると解説しました。
歯ぎしりを無くすことが難しいのであれば、歯を失う根本的な原因の歯周病が進まないような環境作りをしていくしかありません。
歯ぐきの赤みがおさまれば、歯ぎしりをして強い力がかかっても歯を支えている骨が減ることも無くなるのです。では、歯科医院に定期的に通って歯石を取っていれば歯周病は防げるのでしょうか?
答えはNOです。
歯周病は歯の周りに付着したプラーク(歯垢)が原因で起こりますので、歯石をいくら取ってもプラークを取らなければ歯周病は確実に進むことになります。したがってやることは簡単です。
まずは歯磨きを練習して、しっかりと100%近くまで磨けるようになれば良いのです。歯周病の進行を止めることで同時に歯ぎしりの影響も少なくなれば、それが歯を失うことが無い一番の近道になるのです。
もし歯磨きの仕方がわからなければ歯科衛生士の9割が知らない!?歯医者が正しい歯磨きの仕方を徹底解説の記事を参考にして練習してみてください。
治療しなければいけない歯を放置している人が陥る落とし穴
あなたは治療しなければいけない歯を放置してはいませんか?治さなければいけない歯の治療を放置せずに、治療することが結果的に他の歯を守ることに繋がります。
例えば虫歯が進行した歯が左下の奥歯に合った場合、人は無意識に反対の歯で噛もうとします。
この状態が長く続くと、無意識に反対で噛むことが習慣になり、ストレスを生む原因となります。結果、歯ぎしりをする時間が増加する要因になり、状態が悪い歯に大きな力の負担がかかることによって症状が悪化しやすくなるのです。
これらのことから治療しなければいけない歯はすぐに治療して、虫歯にならない環境にするということがとても大切です。
道具や歯医者に行かずにできる対策法
ここまで道具や歯医者に通って行う対策を解説してきましたが、それらを使わずに家でできる対策法も解説していこうと思います。簡単に言うと、それは「眠り方に注意すること」です。
先程歯ぎしりは、眠りが深いときよりも浅いときに起こりやすいと解説しました。このことから、質のいい睡眠によってできるだけ深い眠りにつく努力をすることも重要になってきます。
対策法をいくつかあげておきますので、参考にしてみてください。
- できるだけ就寝前はリラックスした状態で眠りにつく。
- 高さが高すぎる枕は、歯を咬みしめやすくなるために避ける。
- 横向きで寝るなど、顎に負担がかかるような眠り方は避ける。
- できるだけ同じサイクルで就寝し、起床する習慣をつける
まとめ
今回はかなりのボリュームになりましたが、歯ぎしりによって歯を失うことがあること。また歯ぎしりによって何が起きるのか、その対応策を詳しく解説してきましたがいかがだったでしょうか。
- 歯ぎしりは自覚症状が無く、原因もわかっていないために発見することも難しい
- 歯ぎしりを放置していると歯が割れたり欠けてしまうことがある
- 最も怖いことは、歯周病で歯に炎症がある部分に強い力がかかり続けると、歯の周りの骨の吸収が急激に進んでしまう
これらのことがおわかりいただけたと思います。
また歯ぎしりにより将来歯を失はない確実な方法として大切なことは”ナイトガード”でしっかりと歯を保護し、それに加え”歯周病”が進まないような環境にするために日々の歯磨きの質を良くすることです。
今回は以上です。
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