保存修復学は歯科医師国家試験の勉強をしていく中で序盤に勉強をする人が多い教科です。
その中でも歯間分離はしばらく国家試験に出題されていませんでしたが、109回に出題され解答できなかった学生も多かったのではないでしょうか。
なぜかというと臨床経験がない学生はなかなかイメージしにくいところであり、選択肢にたどり着くことができないからです。
今回の記事を読んでイメージを膨らませ、少しでも理解を深めれたらと思います。それではさっそくいきましょう。
目次
そもそも歯間分離って何?
歯間分離とはその名の通り、「歯と歯の間を離すこと」です。主にこのウェッジを歯と歯の間に挟みこみ離していきます。
ただ歯と歯の間を広げて離すのではなく、それにより以下の方法を容易にする目的で行います。
- 歯の切削を容易にする
- 隔壁やバンドの装着を容易にする
- 充填、仕上げ、研磨を容易にする
- 接触点の回復を容易にする
- 歯と歯の間(隣接面)に挿入して診断を容易にする目的があります。
記事を読み進めていれば、なぜこれらの目的があるのかが理解できると思います。そして歯間分離は大きく分けて、即時分離と緩徐分離の2種類があります。
即時分離とは?
臨床的にはこの即時分離が良く使われます。器具を用いている間だけ歯の分離作用があり、器具をはずすと歯間の距離が徐々に元に戻り始めます。即時分離の方法の一つに先ほどのウェッジ(くさび)を使う方法があります。
ウェッジ(くさび) ・・・木やプラスチック製で三角形の断面をしています。
これを処置を行う歯と歯の間に挟み込み徐々に分離していきます。
”ウェッジ”の使い方
CR充填の場合、隣接面に達するようなう蝕の充填を行うときはマトリックスなどを使い隔壁を作りますが、ウェッジは充填する際に使用します。
また歯間分離をすること以外に、以下の目的で使用されます。
- 接触点の回復を容易にする
- 隣接面に間隙が生じるのを防止する
- マトリックスの圧接
それでは一つ一つ説明していきます。
接触点の回復とは?
接触点の回復とはどういうことでしょうか。イラストで書いてみました。
このイラストからもわかるように、歯の形を元通りにするためには歯を一度離してから作ることは必ず必要なのです。
隣接面に間隙が生じる理由
「隣接面の間隙が生じる」ということを説明していきます。もし歯間分離をせずに充填をした場合、金属の厚みの分隙間が生じてしまいます。
そこで間にウェッジ(くさび)を挿入することによって歯が「一時的に」前後矢印の方向に開きます。開いた状態のまま充填をすることによって金属の厚み分が確保されます。
ウェッジ(くさび)を外すことによって一時的に開いていた歯が元の位置に戻ります。こうして隣接面のコンタクト(先ほどの接触点の部分)が緩くなるのを防ぐのです。
マトリックスの圧接とは?
メタルマトリックス(隔壁を作るときに使う金属)にウェッジ(くさび)を挿入することで矢印の方向へメタルマトリックスを圧接します。
もしウェッジをせずに充填をしてしまうとレジンが隙間から漏れてしまい、解剖学的な形態をつくることができません。そこでこのようにメタルマトリックスを患歯に圧接し間隙をなくしていくのです。
”ウェッジ”と”プレウェッジ”の違い
過去の国家試験で、このウェッジとプレウェッジの違いがわからないと解答できないような問題が出題されています。これらは使う器具は同じでも、使用方法によって名前が違います。
方法が違うだけで同じ器具を使い、名前も似ていることから混乱してしまう受験生が多いので以下に解説していこうと思います。
”プレウェッジ”とは?
歯を削るとき(特に隣接面の近くを切削する際)そのまま削ってしまうと容易に歯肉を傷つけてしまいます。そこでくさび型の器具を歯の間に挿入し、歯間乳頭を保護します。
このように歯を削るときに使うのがプレウェッジです。また歯と歯が一時的に離されることによって歯肉の近くが削りやすくすなります。
- 歯肉を排除して保護する
- 歯と歯を離して歯と歯の間(隣接面)を切削しやすくする
これらの目的で歯間にウェッジを挿入することをプレウェッジテクニックといいます。このように”ウェッジ”と”プレウェッジ”を使い分けていきます。それでは練習問題でウェッジなのかプレウェッジなのかを意識して解いていきましょう。
103B-8
32歳の男性。下顎右側大臼歯部の食片圧入を主訴として来院した。自発痛はなく、温度診に異常を認めない。コンポジットレジン修復を行うこととした。初診時の口腔内写真とエックス線写真とを別に示す。
適切なのはどれか。2つ選べ。
a プレウェッジを行う。
b ラバーダム防湿を行う。
c レジンコーティングを行う。
d エアブレイシブで切削する。
e 水酸化カルシウム剤で覆髄する。
正解a,b
これはプレウェッジです。臼歯の2級窩洞を修復するためにプレウェッジを使い、歯間を開くと同時に歯間乳頭を保護します。また修復処置においてラバーダムが必須と考える国家試験の問題で「適切なもの」を問われた場合、ラバーダムという選択肢があれば正解になることがほとんどです。
c,d,eの選択肢はいずれも修復処置では必要ありません。
103D-52
34歳の女性。下顎右側第一大臼歯の冷水痛を主訴として来院した。2週前から一過性の冷水痛を自覚するようになったという。電気診に正常に反応する。コンポジットレジンで修復することとした。初診時のエックス線写真と感染象牙質除去後の口腔内写真とを別に示す。
修復に必要なのはどれか。2つ選べ。
a ウェッジ
b 圧排用綿糸
c セメント裏層器
d マトリックスバンド
e サービカルマトリックス
正解a,d
これはウェッジです。修復時の問題で、デンタルX線写真を見る限りコンポジットレジン修復の適応です。マトリックスバンドをウェッジで固定すると同時に歯を離開させます。また、口腔内写真から圧排綿糸などは必要なさそうです。
107B-4
43歳の女性。下顎左側第一大臼歯の歯質の破折を主訴として来院した。自発痛はなく、歯髄電気診に反応を示す。コンポジットレジン修復を行うこととした。修復操作中の口腔内写真を別に示す。
次に行う操作はどれか。2つ選べ。
a 隔壁の設置
b 修復物の除去
c 齲蝕病巣の除去
d ウェッジの除去
e ボンディング材の塗布
正解b,c
口腔内写真を見て今から切削するのか、充填処置をする時点なのかを見分けることがポイントです。軟化象牙質が残っているところを見ると今から切削を行いますのでこれはプレウェッジです。
セパレーターによって分離する方法
セパレーターという器具をつかって歯間を分離する方法です。ここでも「くさび型」と「牽引型」に分かれ、前者は”くさび”という言葉の意味から、三角形の先端部分を歯と歯の間隙に挿入し、打ち込むような形で広げていきます。
また、ネジを回すことで簡単に歯間分離を行うことができます。前歯部用、臼歯部用があり、それぞれ違った器具を使い分けます。それぞれ確認していきましょう。
アイボリー型のセパレーター(くさび型)
前歯部用の歯間分離器です。アイボリーのセパレーターが前歯部なのか、臼歯部なのかわからなくなったときは、名前の頭文字と形で覚える方法をオススメします。英語で表記した、Ivoryの頭文字「I」の形を想像し、実際のセパレーターの形、前歯の形と似ているのでイメージで覚えてしまいましょう。
エリオット型のセパレーター(くさび型)
臼歯部の歯間分離器です。臼歯部のアイボリーのセパレーターもどちらかわからなくなったときは先ほどと同じ方法で覚えてしまいましょう。Eliotの頭文字「E」の形を想像します。こちらもセパレーターの形とEの形と臼歯の形が似ているので一緒にイメージで覚えてしまいましょう。
フェリアー型のセパレーター(牽引型)
フェリアー型のセパレーターは、唯一の牽引型のセパレーターで歯間部のジョー(嘴鈎:しこう)が食い込み近遠心的に牽引して分離していきます。このセパレーターにもネジがついていて、回すことによって分離していきます。こちらもイラストで書いてみました。
長く歯科医師国家試験には出題されていませんでしたが、第109回の歯科医師国家試験で久しぶりに出題されましたので念のため確認しておいてください。
96B-35
歯間分離法で正しいのはどれか。
(1)前歯にウェッジ型のセパレーターを用いる。
(2)填塞や研磨の操作性が向上する。
(3)隔壁用バンドの装着が容易になる。
(4)隣接面齲蝕の診査が容易になる。
(5)前歯では緩徐分離法を行うことが多い。
a (1),(2),(3) b (1),(2),(5) c (1),(4),(5) d(2),(3),(4) e(3),(4),(5)
正解d
かなり古い問題なので参考程度で問題はありません。歯間分離法により隔壁用バンドが装着しやすくなったり、隣接面う蝕の診査が容易になります。
109A-85
歯間分離で牽引の原理を利用するのはどれか。1つ選べ。
a 弾性ゴム
b ウッドウェッジ
c エリオットのセパレーター
d フェリアーのセパレーター
e アイボリーのセパレーター
正解d
選択肢の中で唯一牽引の原理を利用するものはフェリアー型のセパレーターです。
緩徐分離とは?
その場で歯を分離するのではなく、次回の来院時まで徐々に分離を行います。即時分離と違い徐々に分離を行うので分離する幅も大きく疼痛も少ないというメリットがあります。また即時分離と違い無理に食い込ませることがないので、歯肉を傷つけることがありません。
実際にイメージしにくいと思いますので、臨床写真を見てみましょう。
これは修復前の歯にインレーテック(インレーの仮歯)を装着して間にゴムのセパレータを装着している口腔内写真です。この状態で、患者に一度帰宅してもらい、次回来院時まで徐々に歯間分離を行います。
これが2回目の来院時の口腔内写真です。セパレーターゴムを取り外すと、歯とインレーテックとの間に隙間ができているのがわかります。
これが最終修復を行った後の口腔内写真です。接触点が回復され、歯間離開された状態で修復され、より緊密な充填がされているのがわかります。このような歯間分離方法はまだ国家試験に出題されていないため、今後狙われる可能性があると思います。
まとめ
今回は歯間分離について臨床写真を交えて詳しく解説してきましたがいかがだったでしょうか?今回の記事を読んで器具の名前、適応部位、作用などをもう一度復習できたらと思います。今後、手技を問われる問題が増加する傾向にありますので臨床での手順、なぜそうなるのかをしっかりと確認しておきましょう。
歯間分離の方法を以下にわかりやすくまとめましたので参考にしてみてください。
それぞれの歯間分離法に迷ったときはこの記事を何度も読みなおし復習してみてください。
今回は以上です。
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