世の中には虫歯になりやすい人となりにくい人がいます。その違いはどこにあるのでしょうか?虫歯は歯がある限り一生つきまとってくる病気です。
虫歯になりやすい人には理由があり、ほとんどの人が間違った認識をしているため、間違った行動をしてしまっています。何も知識がないまま、ただやみくもに歯磨きをしているだけでは将来の虫歯は回避することはできません。
虫歯になる本当の原因を理解し、正しい予防の知識をつけることで「誰もが将来なるであろう虫歯」を回避することができます。虫歯に今までならなかった人も原因を知らなければ、今後虫歯になる可能性がとても高くなります。
今回の記事を読んで、この機会に将来の虫歯を回避できればと思います。
目次
こうして歯に穴が空く!虫歯になる過程
原因の話をする前に、どのようにして歯に穴が空くのかを理解した方がわかりやすいと思いますので解説します。歯の周りにはプラーク(歯垢)という黄白色のネバネバしたものが付着しています。ちょうどこの丸で囲んだようなものですね。
わかりにくいので赤く染め出すとこのようになります。
このプラークは細菌の塊です。プラークは歯ぐきの上についているプラークと、歯と歯ぐきの間に入り込んでいるプラークに分けられます。「歯を溶かす酸」を出す菌が住んでいるのは歯ぐきの上にあるプラークです。
- 食べ物が口の中に入るとすぐに、それらを元にして菌が酸を作りだします。
- この酸によって歯の表面から”カルシウムイオン”や”リン酸イオン”というような「歯の表面の硬い部分を作る成分」が溶け出します。
- この状態が長く続き歯が溶け出すことで虫歯となります。
食べ物が口の中に入ることで、それを元に菌が酸を出すことで、容易に虫歯ができやすい環境になってしまいます。この一連の流れを”脱灰”といいます。脱灰は、「歯が溶け出し始めた状態」といったイメージです。脱灰が長く続くことで歯に穴が空きます。
ここで大切なことは、プラーク中の虫歯菌が歯に直接穴を空けているのではなく、あなたが食べたものを菌が食べ、その結果として歯に穴が空くということです。虫歯菌がいても酸を出すようなエサを与えなければ大丈夫です。
虫歯予防には必須! 脱灰【だっかい】と再石灰化【さいせっかいか】のバランスを考える
歯が溶けだす”脱灰”とそれに続いておきる“再石灰化”について詳しく解説していこうと思います。この考え方は虫歯を予防するうえで最も重要と言っても過言ではありません。難しい言葉のようですが、理解してしまえば簡単です。
わかりやすいように、歯医者の世界では良く知られている”ステファンカーブ”という図で説明していきます。これはプラークや唾液中の酸性度を時間とともに表しています。
図の縦軸はpH(ペーハー)といい、酸性度を表します。酸性度が高くなるほど虫歯になりやすくなります。
図を見ると縦軸の上は(pHの数字が大きい)酸性度が低く、グラフの下は(pHの数字が小さい)酸性度が高いことがわかります。
普段口の中は酸性度が低い状態に保たれているのですが、食事をすることでプラーク(細菌)はすぐに酸を出します。すると、右肩下がりで急降下し、口の中は一気に酸性側に傾きます。
ちょうど歯の表面が溶け始める境界を越えると、先ほど解説した脱灰=「歯が溶け出し始めた状態」 が始まります。
その後、時間が経つにつれ唾液の中和作用などによって溶け出た”カルシウムイオン”や”リン酸イオン”などの歯の成分が歯の表面に戻り始め、高かった酸性度も低くなります。これを”再石灰化(さいせっかいか)”といいます。
人は食事の度にこの脱灰と再石灰化がたえず繰り返していて、この脱灰と再石灰化のバランスがとれていれば虫歯になることはありません。このことから虫歯を予防するには、
- ”脱灰”時間をいかに少なくするか
- 酸性度が高いとき、いかに早く酸性度を低くするか(再石灰化させるか)
にかかっているのです。
虫歯になる原因で大切なことはたった2つ
虫歯になるまで、
- 虫歯になる人の抵抗力
- 歯の感受性
- 糖をつくる原因となる食べ物
- 口の中の細菌の数
など、たくさんのリスクが重なることで歯に穴が空き虫歯になります。中でも重要なのは“食事の頻度”と”唾液の働き”の2つを理解することです。これら2つを理解すれば虫歯のリスクを大幅に減らすことができます。
虫歯の最大の原因は毎日の食事の”頻度”
まずは食事の頻度を考えていきましょう。単純に朝、昼、晩3食の食事以外に「間食」をたくさんしている人は、口の中が酸性になる頻度が多く、脱灰している時間も長くなります。食事の頻度が多い人の先ほどの図を見てみましょう。
何度も食事をすることで、脱灰の頻度が多くなり常に酸性度が高い状態、再石灰化している時間が少ないことがわかると思います。決まった時間以外にお菓子などを1日通してダラダラ食べることこそが虫歯になる大きな要因です。
例えば、旅行中にジュースなどを少しずつ飲んだり、スポーツをしているときスポーツドリンクを少しずつ長時間飲むことは虫歯の危険性を高める!ということです。
唾液の◯◯と◯◯が虫歯から歯を守るカギ!
唾液には溶け出た歯の成分を元に戻す作用”再石灰化”を促す作用があり、虫歯を防ぐ重要な役割を果たしています。唾液の力が働いているのは先ほどの図でみると、この部分です。
唾液の質にはそれぞれ個人差があり、唾液の中和させる力を緩衝能(かんしょうのう)といいます。
緩衝能が弱いと不十分な再石灰化により、回復するまで時間がかかり虫歯のリスクが高くなります。逆に唾液の緩衝能が高いと、脱灰してもすぐに再石灰化するため虫歯のリスクはグンと低くなります。
唾液の量も同じで多い方が再石灰化させる力が強くなるので有利です。唾液の量を増やすことはすぐには難しいですが、増えるような工夫をすることですこしずつ改善することはできます。
最も危険!?就寝前の飲食のリスク
唾液は常に多く分泌されているわけではなく1日のリズムがあります。ということは、再石灰化することができないため「唾液の量が一番少なくなる時間帯」に食べ物を食べることが一番危険ということになります。それはいつなのでしょうか?
それは睡眠中です。睡眠中は唾液はほとんど出ません。朝起きたときに口が渇いていると感じたり、口臭を感じるのはこのためです。
寝る直前に飲食することで、酸性度が高い状態が続きます。もしその状態で寝てしまった場合、再石灰化のカギである唾液の分泌が起きず、長時間脱灰が続くことになり結果として虫歯のリスクが最も高くなります。
この記事を読んでいる人で「就寝前の飲食」に心当たりがある人はすぐにやめることをおすすめします。
虫歯のための歯磨きは意味がない?
あなたは歯磨きはなんのためにしていますか?歯磨きは虫歯にならないために行っているのでしょうか?口臭を予防するためでしょうか?
歯医者の立場でいうと、先ほど解説した歯の周りのネバネバしたプラークを磨いて、落とすためにしています。確かに歯磨きによってプラークをきれいに落とすことができます。そしてプラーク中の細菌が歯を溶かす酸を出していることは事実です。
しかし図からもわかるように、食べ物が口に入るとそれを元に菌はすぐに酸を出し始めます。何十分も時間をおくことなく、脱灰は始まっているのです。これは食事の後に歯磨きをしたのでは遅いことを意味しています。また、毎回食事の前に歯の周りのプラークを100%近く落とすことは現実的に難しいことです。
では歯磨きは何のためにするのかというと、歯周病(歯槽膿漏)を治療するうえでとても大切なのです。歯周病の原因はこのプラークです。
上の画像を見ると、歯の周りの汚れからすると、たくさんの虫歯になっていてもおかしくないですが、虫歯にはなっていません。
案外このような人はたくさんいて、虫歯の原因となるような菌のリスクは高いですが、唾液の量が多かったり中和力が強く、間食などもしないため「歯周病」にはなりやすいのですが、「虫歯」にはなりにくいのです。実際に歯科医院で行うことができる”唾液の検査”で中和力がとても強いという結果がでます。
このまま放置して何年か経った後「今まで虫歯にはなったことがなく歯医者知らずだったのに、最近歯医者で歯槽膿漏と言われて歯が揺れてきた!口臭も気になる!」なんてことになってしまうかも‥。
虫歯になるからチョコレートは食べちゃダメ!は嘘
砂糖(スクロース)は口の中の細菌によってすぐに代謝され、プラークが歯に付着するためのネバネバした成分を作ったり、酸をすぐに出したりします。しかし米やジャガイモなどの穀物に多く含まれる”デンプン”という物質も唾液中の酵素”アミラーゼ”によって糖に分解されてしまうため、どちらにしても虫歯の原因となります。
このように考えると「甘いから歯に悪い食べ物」「甘くないから歯に良い食べ物」といった考え方はできません。チョコレートのような砂糖の濃度が高いけれど口の中からすぐになくなる食べ物よりも、せんべいのように甘くはないのに口の中に長い時間残ってしまう食べ物の方がかえって危険です。
このことから「何を食べるか」ではなく、「何回飲食するか」のほうがはるかに大事です。
明日にでも実践できる!虫歯に対する予防法 まとめ
ここからはいままでの原因を踏まえて虫歯に対する予防法をまとめて解説していこうと思います。原因を正しく理解したところで、それを虫歯になる前に防ぐことができれば、効率良く虫歯を予防することができます。
逆に原因だけを知っていても何の意味もありません!専門的なケアは歯医者にまかせて、ここでは明日にでも実践できる虫歯の予防法を4つに分けてそれぞれ解説していきます。
脱灰(歯が溶ける)の時間を減らすための簡単な方法
虫歯になりやすい人は、甘いものに関係なく間食など、ダラダラ食べをしてしまうと脱灰の時間が長くなり虫歯になると解説しました。ということは、食事を全くしなければ良い!のですがそうもいきません。笑 すぐにできることとしては「口の中に食べ物が入る機会を最小限にしてまとめること」です。
- 間食を絶対にやめること
- クッキーなど口の中に残る時間が長い食べ物をできるだけ避ける
- コーラやジュースなど糖分が多いジュースを飲むときは一気に飲む
- スポーツをしているとき、飲み物を少しずつ飲む場合は水やお茶などにして、スポーツドリンクなどはまとめて飲む
このように1日を通して脱灰している時間をなるべく少なくして、食事と食事の間をできるだけあけることです。例えば食事を少しずつ5回行っている人は「1回の量を多くし、3回にまとめてそのときの飲み物をジュースなどからお茶に変える」だけで虫歯のリスクをかなり減らすことができます。
唾液の量を増やす努力をする
唾液の量を増やすことで再石灰化の力が高まり虫歯のリスクを減らすことができます。
唾液には2種類あり、
- 普段何もしていないときに分泌される唾液(安静時唾液)
- 食事をすることで分泌される唾液(刺激時唾液)
に分けることができます。特に再石灰化の力が強い唾液は後者の”刺激時唾液”です。刺激時唾液はものを噛んだりする刺激によって反射的に分泌される唾液です。この唾液の中には酸を中和させる成分がたくさん入っています。
以下にこの刺激時唾液を増やす方法をまとめました。
- 唾液は多く噛むことで分泌されるので、毎日の食事で良く噛むことを意識したり噛む回数が増えるような工夫をする
- 治療途中の歯をなるべく残さないようにして、噛めるようにする
- なるべく糖分の入っていない飲み物で水分を十分に摂る
- 唾液が出やすくなるように顔周りのマッサージを行う
治療途中の歯を残すことは危険!
治療途中の歯、噛むことができない程まで歯が溶けてしまった歯を残していると食べ物を噛む動作の効率が悪くなり唾液の分泌量が減ります。
写真のような虫歯を放置せず、すぐに治療をして唾液の量を保つことで、その歯だけでなく他の歯も守る結果に繋がります。
キシリトールを利用する方法
飲食の頻度をなかなか変えることができない場合、食品に含まれる糖をキシリトール(糖アルコール)に置き換える方法があります。キシリトールは食べても酸が全く産生されません。キシリトールのその他の利点として以下のことがあげられます。
- 虫歯菌の成長を抑制する
- 唾液が分泌する量を多くする
一般の糖とは違ってキシリトールはいくら食べても虫歯にはなりません。また適度な甘さと噛む回数が増えるため唾液が多く分泌されます。
砂糖を全て置き換えるのではなくて、いつもの食生活の中に定期的にキシリトールが含まれたものを摂取するだけで効果があります。試しやすい虫歯予防法のひとつです。
キシリトール100%のものではなくても、50%以上含まれていれば効果はあります。
フッ素(フッ化物)を応用する方法
誰もが一度”フッ素”という言葉を聞いたことがあると思います。水などに溶けている場合正しくは、フッ化物といい歯科の中では超有名で虫歯予防として広く応用されています。
普段使っている歯磨き粉をフッ素配合の歯磨剤に変えたり、フッ化物入りの洗口剤を毎日使用することで虫歯予防に効果的です。フッ素の効果を以下にまとめました。
- 歯の表面の再石灰化を助ける
- 歯の表面を酸に耐えれるように強くする
- 虫歯菌が作り出す酸を抑制する
フッ素の効果を最大限に生かすには使用した後に、できるだけ口の中に残るような工夫をしなければなりません。例えばフッ素入りの歯磨粉を使用した後のうがいによって、せっかくのフッ素が流れてしまいます。
フッ素入りの歯磨粉で歯を磨いた後のうがいは、何度もせず1回にとどめておくことがコツです。
歯磨粉の他にフッ化物入りの洗口剤を使用する方法があります。これは歯を磨いた後、就寝直前に行うことがおすすめです。先ほど説明したように、就寝前が最も唾液の量が少なくなることと、就寝中は食事などでフッ素が阻害されることがないため長い間口の中に残るためです。
まとめ
今回は少し難しい言葉もでてきましたが、虫歯の原因とその予防法について少しでもイメージできればと思います。
口の中は歯が溶けている状態の”脱灰”とそれを元に戻そうとする”再石灰化”の2つがたえず行われていてそのバランスを保っています。「食事をすることでそのバランスが崩れ、歯が溶けている時間が長くなることで、結果として虫歯になる」ということをまずは頭にいれておいてください。
少しでも虫歯になりにくくするためには、虫歯菌の好むような環境にしないこと!です。そのために、
- まずは食事の頻度に気をつけること
- 普段の食事の噛む回数を増やす
- フッ素入りのハミガキ粉を変えてみる
- 甘いものを食べるとき、キシリトールが含まれるお菓子をためしてみる
などすぐに実践できる、ちょっとした工夫から行ってみてください。毎日のことですので、いきなり全部を変えずストレスにならない程度に生活のサイクルに組み込むのが良いと思います。
それらは工夫や努力次第で虫歯になりにくい環境にすることができる反面、一度虫歯になってしまうと人間の歯は二度と同じ素材で元通りにすることはできません。
虫歯になる原因の”本質”を理解してリスクを減らし、虫歯の痛みがない理想的な口を是非手に入れてください!
今回は以上です。
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