今回はわかりにくく、解説の要望も多かった歯にかかる「矯正力」について・種類・作用様式の2つのポイントに分けて解説していきます。力の種類や作用様式を理解することができれば、今後、新しく矯正装置の種類、作用を覚える上でも直ぐにイメージが湧くと思います。ここは試験にも出やすい箇所でもあるのでしっかりと知識を深めておきましょう。
目次
矯正力の種類
矯正力というのは不正な位置にある歯や顎を適切な位置に移動させて、機能させるために加える力のことです。この矯正力には「最適な強さ」というものがあって、その力は弱すぎても、強すぎても歯の移動速度は落ちます。
また、矯正による力というと歯を移動するためだけの力とイメージしがちですが、顎に作用させる力も同じ矯正力です。歯を移動させるための矯正力と顎の移動を対象とする矯正力の2つを次にまとめました。
歯を移動させるために加える矯正力
歯そのものを移動させるために加える力のことです。これには矯正装置を介した力と装置を介さない力があります。矯正装置を介した矯正力は、矯正装置の作用によって歯が移動していきます。また、手段によって次の2つにさらに分けることができます。
器械的矯正力
器械的矯正力は名前の通り、矯正用のワイヤーなどの「機械力」を直接、歯に加える方法です。イメージしやすいものとして、マルチブラケット装置があります。
マルチブラケット装置は直接歯に固定して力をそのまま歯に伝えています。他にも器械的矯正力を与える装置には次のものがあります。
- 矯正用ワイヤー
- コイルスプリング
- エラスティック
- 拡大ネジ など
機能的矯正力
機能的矯正力は、装置自体の力が直接歯に作用するわけではありません。咀嚼するための筋肉や、口の周りの筋肉の「機能力の荷重」を矯正装置を介して歯に作用させる方法です。装置自体が筋肉の荷重を歯に伝える設計になっていて、筋肉が作用している間だけ矯正力が作用します。
機能的矯正装置をまとめました。
- 切歯斜面板
- 咬合斜面板
- 咬合挙上板
- アクチバトール
- バイオネーター
- リップバンパー など
矯正装置を使わない方法
矯正装置を使わずに歯を移動させるような矯正力もあります。「MFT : 口腔筋機能療法」による歯の動きです。これは、もともと顎や歯列の発育、歯列不正を招くような舌圧、発音を邪魔するような習癖(指しゃぶり、舌癖)などをもつ患者が対象となります。
MFTの訓練のメニューを段階的にこなすことで、それらの習癖を除去し、筋圧のバランスを整えることで結果的に歯列が正常な位置に移動します。
MFTについて詳しくはこちらの記事で詳しく解説しています。
顎の移動を対象とする矯正力
例えば、下顎が出ている人の原因が歯ではなく、顎自体にある場合も珍しくありません。このように「骨格的」に問題がある場合に対し、顎骨の成長を装置によって制御することによって上下の顎のバランス、大きさなど整えることを目的とした力のことです。
(顎整形力) 顎に対して力を発揮する装置には以下のものがあります。
- 上顎前方牽引装置
- チンキャップ
- ヘッドギア
- 急速拡大装置
矯正力の作用様式
矯正力の作用様式には、
- 持続的な力
- 断続的な力
- 間歇的な力
の大きく3つに分けることができます。これらはグラフで理解するとわかりやすいです。また、それぞれの作用様式の代表的な矯正装置も関連付けてここで覚えてしまいましょう。
持続的な力
矯正力の減退していくスピードが比較的緩やかで、矯正力の作用する力が連続します。グラフで表すと図のような形です。
イメージが湧きにくい場合は輪ゴムを伸ばした状態や、細いワイヤーを曲げた状態の手に伝わる力の感覚を想像してみてください。
ゴムやワイヤーは元の形に戻ろうとするため持続的に弱い力が手に伝わっていると思います。 持続的な力を発揮し歯を移動させるものに顎間ゴムがあります。
移動させたい歯と反対側の顎にゴムを引っ掛けて固定することで力を作用させます。種類には
- Ⅱ級ゴムや
- Ⅲ級ゴム
- 交叉ゴム
があり、作用する力の方向などが異なります。
また、舌側弧線装置も持続的な力が作用する装置の1つです。この装置は歯を移動させるための固定源を上顎の第一大臼歯に置きます。弾力のある細いワイヤー(補助弾線)を曲げた状態で、太いワイヤー(主線)に固定することで、細いワイヤーが元に戻る力を利用して、持続的な力を前歯にかけます。
この装置の移動様式は傾斜移動ということも大切なので覚えておきましょう。歯の傾斜移動は比較的弱い力を歯の一部分に水平方向から加えることで起きる移動様式です。これは図を見ればすぐにわかると思います。
断続的な力
矯正力の減退していくスピードが急激で、比較的短時間で矯正力が0になる力のことをいいます。グラフに表すと図のような形です。一度強い力がかかりますが、長い間力はかからず力の減退も早いのが特徴です。
代表的な装置に急速拡大装置があります。
この装置は中央に拡大ネジが付いていて、中央の穴に調整用の針金を差し込んでネジを回すことで、装置が左右に開き強い力が顎骨にかかることで側方に拡大します。この操作は患者自身が行います。
注意点としては、歯のみが左右に移動するのではなく顎骨自体が左右に開くことで(正中口蓋縫合の離開)歯も同時に左右へ大きく移動し、結果的に歯体移動を起こします。歯体移動は歯の全体に水平的に大きな力がかかることで起きる移動様式です。
間歇的な力
装置が装着されている間だけ矯正力が働き、その他の時間には作用されない力のことを間歇的な力と言います。これは、グラフのように作用と中断を繰り返します。
この力は装置をつけて、筋肉が働いている間のみ力を発揮するので、先程説明した、「機能的矯正装置」が発揮する力となります。
力が0ということは装置の取り外しも可能ということです。 代表的な装置にアクチバトールやバイオネーターがあります。
普段噛み込む位置よりも下顎を前方に誘導させた位置(構成咬合位)で装置を作製することで顎が前に噛み込み、間歇的な力が作用します。装置を外している間は当然ですが矯正力が0に戻ります。
歯列不正を治すための歯の移動様式
個々の歯は乳歯が早期に脱落したり、残存している場合、過剰歯など余分な歯があると本来の位置からずれて萌出してしまうことも多くあります。これら、「個々の歯の位置異常」に対して、正常な位置まで歯を移動させる移動様式の種類についてもいくつかあるので、ここで解説しておきます。
歯冠に近遠心あるいは、頬舌方向の力を加えた場合一般に歯根の根尖側1/3付近を支点として歯が傾斜することを「傾斜移動」といいます。また、歯が傾斜することなく平行に移動することを「歯体移動」、歯の長軸に沿って歯冠方向に移動することを「挺出」といいます。比較的、傾斜移動と挺出は動きやすいことが特徴でもあります。
上の3つとは違い、歯の移動がしにくい移動様式もあります。歯の長軸に沿って歯根方向に移動することを「圧下」といいます。また、歯の長軸を中心として捻転している状態を改善することを「回転」といい、歯冠部分を回転の中心として、主に歯根を頬舌的に移動させることを「トルク」と言います。
まとめ
いかがだったでしょうか? 矯正学は暗記ではなく、力の作用の方向を考えた上で、装置をイメージすることがとても大切です。その方が記憶にも残りやすく理解も早いからです。
今回の記事の大切な部分をまとめました。
- 矯正力の種類には歯を移動させるために加える矯正力と顎の移動を対象とする矯正力がある
- 歯を移動させるために加える矯正力は装置を介して歯自体に矯正力が作用する方法と、筋肉の作用による荷重が矯正装置を介して歯の移動を行う方法がある。
- 矯正力の作用様式には・比較的緩い力で長い時間作用させる力(持続的な力)
- 強い矯正力を短時間作用させる力(断続的な力)・装置を装着している間だけ作用し、それ以外は0に戻る力(間歇的な力)がある
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